首都高速でコースディナーを! 東京レストランバスで熟年デートのススメ

首都高速でコースディナーを! 東京レストランバスで熟年デートのススメ

世の中には2種類のイベントしかない。テンションの上がるイベントか、それ以外か。しかも、それなりの経験を積んできた中高年にとって、前者とめぐり合うのはなかなかに難しい。
そんな中高年ど真ん中の筆者が話を聞いて久々にテンションが上がったのが、WILLER EXPRESSが運行する「東京レストランバス」だ。なんとバスの中で本格的な食事を楽しみつつ、東京名所観光までできてしまうという。

 

女友達の美和さんを誘ったところ、開口一番「それ素敵!」とOKをいただいた。東京生活が長く、遊びもグルメも知り尽くした彼女だが、これには興味津々らしい。

東京駅の赤レンガ前に“ピンクのレストラン”出現!

レストランバスのコースは4つ。和食をメインにした「和モダン」と洋食メインの「ヨーロピアン」があり、それぞれランチコースとディナーコースがある。今回はお箸でいただけて、夜景も楽しめる和モダンディナーコースをチョイスした。

午後6時。東京駅丸の内口前の丸ビル1階に集合。駅前広場をはさみ、目の前に赤レンガの東京駅舎がたたずむ。あいにくの梅雨空だが、雨にぬれた東京駅もいいものだ。
景色に見とれていると、美和さんが「やっほ~リツ〜(私のこと)」と陽気に現れた。いい歳して全力で手を振ってくるのが少々恥ずかしいが、今日ばかりは紳士に出迎える。気合を入れてドレスアップした彼女が5割増しくらいきれいに見えたせいだ。
雑談していると、目の前にくだんのバスがやってきた。遠くからでもすぐわかるピンクの車体。2階建てで高さもあり、ひときわ目を引く。

細い階段を抜けると、そこはレストランだった。4人席×5、2人席×2の計7卓のテーブルがあり、定員は24人。かなりゆったりしたしつらえだ。「すご~い」と興奮する美和さんをうながし、指定された後方席に陣取った。
午後6時10分、丸ビル前を出発。人生初のバスディナーがスタートした。まずはドリンク選びから。美和さんはサワー、下戸のわたしはジンジャエールで「とりあえずかんぱ~い」。ビール、ワイン、日本酒とアルコール類は豊富なので、お酒好きの方はご安心を。

バスは皇居前からお濠沿いに日比谷方面へ。その間に料理が一皿ずつ運ばれてくる。

お出汁のきいたやさしい味の料理たちに彼女も笑顔

合鴨ロースや里芋そば粉揚げなどの入った口取りに、先付けは蒸しウニののった枝豆豆腐。

冷製の玉地蒸し(茶碗蒸し)はひんやりプルンとした中にエビやオクラの食感が美味。

コハダとズワイガニの冷鉢まで、夏らしく涼しげな料理が並ぶ。

いずれの料理も口に含むとほんのりとお出汁のきいたやさしい味付け。グルメな美和さんも「いいお味ね」と笑顔。盛り付けも美しく、とてもバスの中のキッチンで作られる料理とは思えない。美和さんも一品一品写真を撮ってから箸をつけている。

バスが揺れて飲み物や食べ物がこぼれないのか心配したが、まったくの杞憂だった。テーブルにはグラスの直径に合わせた複数のホルダー、持ち手の細いグラス専用の溝があり、転倒を防ぐ。料理は手前の滑り止め付きシートに置かれ、こちらも滑り落ちる心配はない。さすがによく考えられている。

表参道、原宿で街ゆく人の注目の的に

日比谷公園、桜田門、国会議事堂。青山通りに出て、赤坂御用地、神宮外苑を横目にバスは西に進んでいく。どれも見慣れた景色のはずだが、“高みの見物”だとなぜか新鮮に映るから不思議だ。「あそこで昔お茶したよね」「あのビルで以前働いてたよ」と思い出話に花が咲く。

きらびやかな表参道、若者でごった返す原宿。ショッピングを楽しむ人々が珍しそうにこちらを見上げ、中には手を振ってくる人も。注目されるのが恥ずかしくもあり、うれしくもあり。バスはそこから東に進路を変え、六本木方面へと向かっていく。

夜に浮かぶタワー、気分は空中レストラン

と、ここでうれしいサプライズが。雨が上がったため、天井にかかる透明ルーフを開けるという。待ち望んでいた乗客から拍手と歓声が上がった。晴れ女の美和さんに感謝。


ルーフを開けたら、気分はもう空中レストランだ。暗くなり始めた空を背景に、巨大な六本木ヒルズのオフィスタワーが迫る。続いてライトアップした東京タワーに大接近。何も隔てるものがない眺めは迫力満点だ。東京タワー近くでは撮影タイムもあり、みんな立ち上がって思い思いに撮影を楽しんだ。


このあたりでメインの焼物料理、牛フィレの炙りがおごそかにやってきた。熱々のお肉と季節の野菜を濃厚な江戸みそに付けていただく一品。


「お肉やわらか〜い」と美和さんが苦手なレア肉をほおばっている。「おいしいのは大丈夫」なんだとか。

進化を続ける東京に話は尽きず

その間にバスは首都高に乗り、お台場方面へ。ここでアナウンスが入る。「今、首都高速でディナーをしているのは皆さまだけでございます。特別な時間をお楽しみください」と。たしかに、高速道路でここまで本格的なディナーをしている者はほかにおるまい。

東京湾の屋形船を見下ろしつつレインボーブリッジを渡り、お台場の巨大モール、アクアシティに到着。ここで30分停車。トイレを済ませ、東京湾の夜景やショッピングを楽しんでいたら、あっという間に出発時間がきた。

バスはここから帰途に就くが、お楽しみはまだまだ続く。築地から銀座を抜けるコースをとるため、歌舞伎座や和光など定番の街並みが観光できるのだ。

「歌舞伎座は新国立競技場と同じ建築家の設計で改築したんだよ」と豆知識を披露すると、美和さんも「GINZA SIX の中のあの店はめっちゃ美味しいよ」などとおやじの知らないグルメ情報で応酬してくる。常に進化し続ける東京の街ネタは尽きないのだ。

ディナーもそろそろ終盤戦。飛龍頭と粒あわびの煮物、穴子飯とすまし汁の食事と続き、最後は季節の果物と抹茶ケーキでしめくくる。


食べたり撮ったりなかなか忙しいが、それもこのバスの醍醐味の1つだろう。


午後9時過ぎに丸ビル前に戻ってくる頃には、心もおなかもいっぱいになっていた。

バスを降りて窓から1階のキッチンをのぞくと、2人の料理人が後片付けをしていた。我々が優雅に食事と観光をしている間、ここはさぞかし忙しかったことだろう。それにしても、この狭いキッチンで本当に調理していたのだろうか。

「さすがに1からはできないので、別の場所で仕込んでから来ますよ」「バスでするのは主にあたためと盛り付け。他と違うのは、葛を敷いたりとろみを出したり、料理が崩れないようにすることですね」とベテランシェフは教えてくれた。なるほど納得。あのお味と盛り付けは、やはりプロの腕と工夫のなせる業だった。


下車後、美和さんから「すごいよかったね、誘ってくれてありがとう」とお礼の言葉をいただいた。「次は洋食コースでも」と言いかけたら、「今度は田舎の母を連れてきたいな」。それもほめ言葉と受け止め、昭和の男は黙ってうなずいてみせるのであった。

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この記事のライター

武田律
東京生まれ。四半世紀の新聞記者生活を経てフリーに。専門は文化・芸術全般、金融経済、株式投資など。現在、投資コンサルティング会社の専属ライターを兼任。旅と温泉と競馬をこよなく愛する。


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