【第3章】WILLER EXPRESSの雪山研修特集!雪山走行訓練の様子をレポート

こんにちは。S先生です。

 

雪山研修特集、第3章の記事になります。

1章でも書きましたが、雪山研修では以下の訓練を行います。

 

 ①タイヤチェーンの装着訓練

 ②安全装置をOFFにした状態での急ハンドル・急ブレーキ

 ③安全装置をONにした状態での急ハンドル・急ブレーキ

 ④サイドブレーキのみでの停止

 

このうち①については前回の2章「チェーン装着訓練編」で解説しました。今回の記事では②~④の走行訓練について詳しく紹介していきます。

 

1章でも述べた通り、雪道でこれらの運転動作を行うことは大変危険です(絶対に真似しないでください)。しかし敢えてこのような極限状態を作り出すことで、バスの機構や乗務員の運転技術の “身の丈を知る”ことが出来るのです(詳しくは1章を参照)。
【第1・2章】WILLER EXPRESSの雪山研修特集!チェーン装着訓練の様子をレポート
本章では、まず雪道を安全に走行するうえで必要な安全装置の役割について簡単にご説明したのち、走行訓練の様子をご紹介いたします。

 

当日は私有地(駐車場)内で周囲の安全に十分配慮しながら訓練を行いました。長野県の山間部で、日は沈み気温は氷点下、路面は凍結し滑りやすいという、普通に運転するだけでも神経を使う状況にもかかわらず、さらに危険な運転を試みるということで、訓練は想像以上にハードなものでした―――

▲訓練開始時の路面の状況。凍結した雪の上に湿った雪がうっすら積もっている状況。

 

はじめに:安全装置について

 

訓練自体について説明する前に、まずはバスの安全装置について簡単に解説します。雪道を安全に走行するうえで重要な安全装置は、主に「ABS」と「横滑り防止装置」の2つです。

 

「ABS」は “Anti-lock Braking System”の略で、車輪のロックによる滑走を低減する装置です。滑りやすい路面で急ブレーキをした場合、車輪の回転が止まってしまい(ロック)、その結果スリップしてハンドル制御を失ってしまうことがあります。これに対して、車輪の回転の異常な減速を検知した場合に自動的にブレーキを緩め、ロックを未然に防ぐ仕組みがABSです。ABSの働きによって「急ブレーキをかけながらハンドル操作を維持する」ことが可能になります。

 

2つ目の「横滑り防止装置」は、三菱ふそう車両では“ESP(Electronic Stability Program)”、日野・いすゞ車両では “VSC(Vehicle Stability Control)”と呼ばれ、異常な旋回を検知した際に左右のタイヤの回転数やエンジン出力を自動的に制御し、可能な限り車両を安定させるシステムです。

 

ABS・横滑り防止装置とも、現在市販されている乗用車にも標準搭載されています。これらの働きにより、悪路や非常時でも可能な限り車体の制御を確保できるようになっています。

 

安全装置を切る恐ろしさ

 

さて、安全装置の概要について確認したところで、実際の研修の様子について見ていきましょう。研修参加者はバス3台に分かれて走行訓練を行いました。指導課長(各営業所における乗務員指導の責任者)が乗務員席の真横で監督しながら、各乗務員が交替でハンドルを握りました。また、今回の研修ではAMT(セミオートマチックトランスミッション)車を使用しました。AMT車はMT(マニュアルトランスミッション)車に比べて車両総重量が重く、よりハイレベルなドライビングテクニックが必要とされます。

 

はじめは、チェーン無し・安全装置OFFでの急ハンドル・急ブレーキの実践です。外周200mほどのコースで、ハンドルを大きく切りながらカーブを抜け、最後の直線はアクセルべた踏みで40km/hほどまで加速させて、最後に急ブレーキを踏みます。

 

先述の2つの安全装置は、簡単に言えばスリップやスピンを未然に防ぐためのコンピュータシステムです。言い換えれば、これらをOFFにして雪道を運転するということは容易にスリップやスピンが発生しうるということです。しかも今回の訓練ではさらに急ハンドル・急ブレーキをします。一体どうなってしまうのでしょうか。実際の走行の様子を車内から撮影したのが以下の動画です。

 

 

何が起きているかというと、まず右カーブ時に遠心力で後輪が横滑りし、車両後部がカーブの外側に振れています。結果として意図しているよりもバスがカーブの内側を向いてしまっています。また、ブレーキ時にタイヤが滑っています。車体の滑りに合わせて逆ハンドルを切ることで車体の向きを正面に戻すことが出来ますが、やはりチェーン無し・安全装置無しの状態では制御は難しく、簡単には修正できません。

 

雪道において“無防備”な状態でバスを走らせるのが危険であることは言わずもがなですが、実際にその状態を作ることで、雪道でハンドル操作・ブレーキの効き目がどれくらい失われるのか、乗務員はその身を以て体感することが出来ます。

 

安全装置の効果とその限界

 

さて、今度は安全装置をONにしての走行訓練です。ただし、チェーンは装着しません。つまり、先ほどの訓練と安全装置のON/OFF以外に条件の違いはなく、純粋に安全装置の効果を体感できます。いったいどれくらいの違いがあるのでしょうか。次の動画で比べてみましょう。

 

 

左の「安全装置OFF」の画面の揺れがすさまじいですが、これは撮影者の私の手ブレが異常なのではなく、実際にこれくらい乗り心地が違いました。というのも、横滑り防止装置が機能すると、リミッターによって速度が必要以上に上がらないようになり、車体の振動が抑えられているためです。また、カーブを曲がる際も「安全装置ON」のほうがスムーズに曲がっており、横滑りもわずかです。また、停止するときも「安全装置ON」のほうが車体が安定しているのがお分かりいただけるでしょうか。動画では音声はありませんが、実際には「プシュ、プシュ、」とABSが作動する音が聞こえていました。ABSの働きにより車輪がロックせず(滑らず)に停止できています。

 

ご覧のように、ABS・横滑り防止装置の効果は一目瞭然です。しかし、何度か運転を試す中で、その効果には限界があり、またその効果も車種によって異なることが分かりました。例えば、メーカーによって安全装置の効き方に違いがあること、同じメーカーの車両でもエンジンの出力によって轍(わだち)への引っかかり具合が変わるため挙動に差が生まれること、トイレ付き車両は後部の重量があるので後輪が滑りにくいこと、などです。また、横滑り防止装置が機能していても余計なハンドル操作を行ってしまうと効果が減損することも分かりました。

 

訓練を通じて、安全装置には一定の効果はありつつも限界もあり、あくまで補助的な装置であるということを改めて認識しました。

 

走行中にサイドブレーキを引く

 

雪山研修の最後のパートは「走行中にフットブレーキを使わずにサイドブレーキを引いて停止する」実験です。ベテラン乗務員にとっても、もはやここまでくると未知の領域です(読者の皆様も絶対に真似しないでください)。「スリップするだろう」という大方の予想はつきますが、制動距離や車体の動揺について一同想像の域を超えません。

 

実験の結果は動画でご確認ください(念のため、左前輪のみチェーンを装着しています)。

 

この時車内にいた私は、正直「案外おとなしく止まるな」と思いました。大きな動揺はなく、乗っている感覚としてはスムーズなブレーキングでした。しかし動画をよく見ると、後輪がロック(回転を停止)したまま、ズルズルと車体が滑っています。フットブレーキは踏んでいませんし、また後輪の回転をサイドブレーキで強制的に止めているのでABS・横滑り防止装置も機能しません。したがって「車両が完全にスリップし、残されたわずかなタイヤの摩擦力に任せて停止している」という、ほとんど制御不能の状況です。

 

動画内でサイドブレーキを引く直前で速度は25~30km/h程度と思われます。通常路面で大型バスが30km/hで走行しているときに急ブレーキをしても、制動距離(空走距離除く)はおよそ10m程度ですが、動画内では少なくとも30mは滑っています。左前輪のチェーンがなければさらに滑走していたことでしょう。

 

冒頭の「安全装置OFFでブレーキをかけ」た場合では、スリップはしたものの車輪の回転が完全に止まることはありませんでしたが、今回は完全にロックしています。車輪がロックすることの恐ろしさがよく分かります。

訓練を通じて得た学び

 

走行訓練編、いかがでしたでしょうか。

 

念のためお断りしておきますが、WILLER EXPRESSの乗務員は、お客様をお乗せして走っているときに故意に安全装置を切ったり、みだりに急ブレーキを踏んだり、サイドブレーキを引いたりすることはあり得ません。そうでなくても、乗務員は安全を第一に危険を未然に防ぐような運転を心がけているので、危険な状態に陥ること自体が稀です。

しかしながら、公道上では何が起きるかわかりません。もしかすると、危険を回避するためにやむを得ず急ブレーキを踏まざるを得ない場面に出くわすかもしれません。そしてその時道路に雪が積もっているかもしれません。

そんな時に、車両特性を理解したうえで迷いなくブレーキを踏めるのか、一瞬の迷いからワンテンポ遅れてブレーキを踏んでしまうのか。この違いが最悪の場合、命にかかわることさえあります。その場での最善の策を迷いなく実行する上で、今回の訓練のように厳しい条件での運転操作を経験することが非常に重要なのです。

 

日々安全運転を続けている乗務員にとっては、今回のような危険を伴うトライアルは大変貴重な経験になりました。研修後のレポートをいくつか読みましたが、参加者それぞれの立場に応じて新たな気づきがあったようです。

乗務員  「走行中窓を開けることで路面の状況を確認できることに気づいた」

乗務員  「サイドブレーキの動作確認が出来た。雪道に限らず、

      ブレーキ故障などの際に最終手段として使う選択肢もあると感じた。」

運行管理者「急制動がお客様にもたらす負担や不安感を理解できた。

      今後はよりリアリティをもって乗務員への指導をすることができると思う」

 

WILLER EXPRESSでは、こうした学びを個人のものだけにせず、乗務員同士や営業所間の情報共有によって他の乗務員にも横展開するような仕組み作りをしています。雪山研修は当然冬にしか実施できない研修ですが、貴重な研修で得られた学びを無駄にせず、組織として最大限生かせるようにしています。

 

WILLER EXPRESSは、今後も質の高い研修とチームワークを通じて、組織として安全品質の向上の努めてまいります。

【第1・2章】WILLER EXPRESSの雪山研修特集!チェーン装着訓練の様子をレポート

 

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